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廣川 真紀子

(ひろかわ・まきこ / HIROKAWA・MAKIKO)

廣川  真紀子の写真

イタリアンジュエリーブランド ノイジョイエッリ オーナーデザイナー兼職人。
東京生まれ。17歳の時にジュエリーに目覚め、ジュエリーを学ぶ為に渡伊し、トスカーナ州公認彫金細工師資格取得後、フィレンツェ最優秀職人賞を受賞したレオナルドキッレーリ氏に師事。
2004年にNOI GIOIELLI ノイジョイエッリを設立。フィレンツェに百五十年続く工房をバックグラウンドに、数々のコレクションをプロデュースしながら、老舗宝飾店や個人からのオーダーを受けてジュエリーを作り続けている。
ヨーロッパ諸国をはじめ、ドバイ、日本、香港のジュエリーショーに出展し、イタリア国内では、フィレンツェ著名チョコレート職人ロベルトカティナーリやウェディングドレスメーカー、パティシエ、美容外科サロンなどとコラボしたジュエリーイベントを開催し地元フィレンツェの人々からも支持を受けている。

公式サイト www.noigioielli.com

公式サイト www.noigioielli.com

はじめに
ジュエリーは人とともに存在し、人の様々な想いが凝縮されたもの。ジュエリーの美しさに魅入られ、それを手に入れるためにはなんでもするという飽くなき欲望をも引き起こすような存在であるかと思えば、その人の大切な思いを受け止める唯一無二の存在になってみたり、その時代の歴史を証言する存在となってみたり・・・。こうしてジュエリーは愛され続け歴史を作ってきた。

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とある素敵な出会いから、このウェブマガジンに載せていただくこととなった。ジュエリーについて伝えたいことは山ほど持っているが、学生のうちに日本を飛び出し、その後約20年間をイタリアで過ごしてきた私は今、日本語を上手に使って100パーセント表現するということの難しさを痛感している。とにかく自己紹介やセルフプロモーションは苦手で、気持ちや感情表現はジュエリーの作品そのものに表してきた。そうして生まれたジュエリーが各国の人々の目に触れ、そこから会話が産まれ、良し悪し問わず様々なリアクションをたっぷりと受ける。それを次の作品へ映し出していくということを繰り返しながらずっとジュエリーと向き合ってきた。せっかくのこの機会に、イタリアでのジュエリーの在り方を私なりに紹介し、少しでもジュエリーと接する気持ちが良い方向に変化していってくれれば嬉しく思う。

“ジュエリー” と言ってもその概念は幅広い。ここで私が紹介するジュエリーとは貴金属と宝石やダイヤモンドの宝飾品のことである。
フィレンツェを選んだのはその歴史が裏付ける芸術的背景に魅了されたからである。フィレンツェは、ご存知の様に絵画、建築、彫刻などのあらゆる芸術に多大な影響を与えた芸術運動ルネッサンスの中心となった場所だ。芸術作品の数々を頭に浮かべると、巨匠の名前や当時の領主の名前は容易に上げられるところであるが、しかし、実際にそれらの作品を作り出してきたのは職人達。だから、フィレンツェには今でも多くの職人が存在し、その中でもジュエリー職人の数は群を抜いてる。そして、その存在は決して特別なものではなく、むしろ伝統技術を街中の工房で守り作り続けている賑やかで人情の熱い職人達の存在なしではフィレンツェの街は単なる世界遺産のテーマパークにすぎなくなってしまうだろう。

私たちがノイジョイエッリを設立したのは2004年の春。壮大な歴史が育んできた伝統技術とそこから進化し続ける「新しさ」を融合させるコンセプトを持ち、私たち職人がお客と直接対話することをとても大切にしている。つまり、一つのジュエリーを生み出すにあたって、その人のライフスタイルや好みだけでなく、過去の出来事や将来の夢や希望に加え、さらに財産価値としての投資の目利きまでしてしまう、という業務態様をオファーし続けていくことをモットーとしている(「至れり尽くせり」という言葉の方が近いかも知れない)。実は、この方法は、ルネッサンス時代から存在し、今に伝わっているものである。
ヨーロッパでのジュエリーの歴史は長く、ジュエリーの存在は人々の生活習慣の一部ともなっている。自分の本来の姿や秘めた想いを表現できるものがほとんどで、それは愛情であったり、ご褒美であったり、欲と資産の証であったりと様々だ。
例えば、ここイタリアでは、男女を問わず産まれた時からジュエリーとのつきあいが始まる。今でも出産時や洗礼の際のプレゼントとして、富に恵まれる成長を願って金のブレスレットやペンダントを贈る慣習がある。金のチェーンや十字架のペンダントをしたヨーロッパの男女を見かけることは多いだろう。大抵は両親や親戚などから、人生の節目にプレゼントしてもらった大切な思い出のジュエリーであることがほとんどなのだ。「大切な思い出のジュエリー」とだけ言えばロマンチックであるが、そこにはその資産価値にも着目するというクールな考えも根底にはあるのだ。

ジュエリーは資産である。欧州では当然の認識である(といっても過言ではない)。
近年、財産目録作成のための宝飾鑑定の依頼を頻繁に受けるようになった。時代の流れに伴い物の価値や金(ゴールド)の相場が大きく変動してきていることや、所有する財産のデータ管理による要求、さらには不況によりジュエリーの現金化を余儀なくされることなどが理由に上げられるだろう。
鑑定の仕事はとても興味深い。その家の歴代の人々の人生の流れを垣間見るようなものだし、比較的新しいジュエリーからでも100年ほど前の時代のヨーロッパジュエリーの流行スタイルやモチーフ、職人の仕事ぶりを楽しむことができる。そして何よりも驚くものを目にする機会に恵まれることが多いのだ。何十カラットものダイヤモンドがちりばめられたジュエリーや金のテーブルウェア各種があるかと思えば、子供のこぶし大はあるドナルドダックの金の像や、さらには男性性器型のペンダント(?!)まで様々なものに出会うことがあり、全てご紹介できないのが残念なくらい。そしてこれまでに一番心をゆさぶられたものは、オシャレで有名なイタリア男性ならではのアイテムで、スパークリングワインの泡を軽くするというもの。金にシンプルな模様を浮き彫りにした小型のボールペンほどの大きさで、上部のボタンをスライドすると放射線状に何本かの金の細い棒が出て来る。夕暮れどきのアペリティフの際、気になる女性の前で恥をかかぬよう発泡酒の泡をスマートに軽くするのだ。いろいろなジュエリーを見てきたが、これを見た時には今まで以上にイタリアでこの仕事をしている事実に胸が熱くなったことを覚えている。