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絵で伝える湧き上がる幽玄美

今吉 淳恵

(いまよし・あつえ / IMAYOSHI・ATSUE)

今吉  淳恵の写真

東京都に生まれる。早稲田大学卒業後、源氏に出会う。
早稲田大学院・中野幸一研究室にて源氏物語を聴講、日本画を始める。日本美術院同人小谷津雅美先生に師事。
パリユネスコ本部の主催により、47m源氏物語絵巻個展を開催し、大きな好評をえる。その後パリユネスコ本部、パリ大学、パリ政治学院シアンスポにて、今吉淳惠の源氏物語講演会を開催。源氏にある幽玄美を描きたくて取り組んでいる。



公式サイト http://imayoshi-world.com/

講演会の章

UNESCO個展の大好評により翌年には、パリ大学、パリユネスコ本部、パリ政治学院、シアンスポで私の47m絵巻をスライドでみせながら、幽玄美のお話をしました。

熱心にメモをとるフランス人も多く、日本の美に対する深い興味を実感しました。

私の生まれてはじめてのカンファレンスがパリだったとは、人生は本当に面白いですね。

これからも、ますます日本の美への関心が深まっていき、源氏を読む人も出てくると思いますが、原文を読める人は、本当にまれです。

その原文から受け取った幽玄美を絵に表現し、視覚に訴えたものを創り出すことができたことは私にとって至上の幸いでした。

どうにか世界の人が源氏にある、神業といわれる心理描写、人物の心情をきわだたせる幽玄美の奥深い魅力に触れてもらえたらと願っています。

幽玄美 紹介の章

紫式部は「冬の夜満月の澄んだ光に雪の映えあっている空が、色はないけれど不思議に身にしみて、来世のことまでも思いをはせずには居られない。そういう美の方が、見た目の美しさもしみじみとした感情も余すところもなく感じられる」という美的感受性の持ち主でした。

桜や紅葉の美しさよりも、もっと深く透徹した余情性をとらえた美、すなわち幽玄の美を感じることの出来る人であり、それをはっきりと感覚にとらえ文章描写に展開できる天才でした。

これは当時の王朝びとの美的感覚よりもさらに高い天才的感受性です。

式部はこの幽玄の美を使って人物の心情を美しい中にさらに効果的に際立たすのです。

「もののあはれ」ともいっています。

絵をご覧ください。

幽玄美とは、色恋とか、人生や人間生活のいろいろな美的文化的生活の次元を突き抜けた、もっと高く霊的で澄んだ、宇宙にも通ずる高い次元の美です。

私の須磨の絵は、このもっと突き抜けた高い次元の美を人物の心情までも含めて描きたいと願って絵に表現しました。源氏の和歌の心情までも描いています。

そのためには原文を読み、大和言葉の韻律の美しさまで理解して感じ取らないと、このような高度な幽玄美までは描き出せません。

特に紫式部の天才的美意識の特徴である幽玄美をなんとか表現したいと願っています。(紫式部の美の感覚は同時代人の美意識のレベル以上でした。すでにして中世のを彷彿とさせるその美の感覚の深さ、高さの韻律表現は、自ずと世阿弥に引き継がれ能の幽玄美として昇華されていきます)。

絵巻では夕顔、須磨、蛍、若菜の作品で試みています。

さらに源氏物語の奥に流されている古来連綿と引き継がれている日本人の心、魂、美意の豊かさ、高さ、神仏の世界を何とか表現したいと、とりくむ日々となりました。

ゆらぎの発見の章

幽玄美には「ゆらぎ」があることを私は発見しました。

深夜耳元に聞こえてくる波の音、風の音に涙する源氏。

琴を弾きながら歌をよむ。ゆらぐ波の音、風の音、虫の声、琴の音、風に揺れる紅葉の赤い色に光があたる、きらめきなど、このような自然の持つゆらぎの美しさが「ああ、あはれ」と人の心情を揺れ動かしてゆき、深く研ぎ澄ませてゆく。

心の中に情感を溢れ出させ、しみじみと「もののあはれ」を感じ、涙し、歌に詠い詩を作る。

幽玄美のもつ際立った美しさの秘密にはこのゆらぎがあったからなのです。

源氏の幽玄美は、大和言葉の美しさと相まってこのゆらぎが人物の心情をさらに美しく目の前にきわ立たせて立ちのぼらせていくのです。

この須磨の絵は、幽玄美の中にゆらぎのムーブマンも含めて、源氏の歌の心情までも表現したいと願って描いたものなのです。

私の絵には余白をたっぷりとってあります。

余白には、豊かにものを語らせる力がひめられていて、余白には本当に力があります。

最近の日本画は余白をつくらないのですが、もっと余白に語らせたらと私は思っています。

描くこと以上に何も描かない効果を昔の人は知っていました。

私の余白の中には、さらに奥に広がる豊かな世界、イメージの広がりや感動を与えられるものが入っています。

その余白の力を、私の絵から感じてほしいのです。